【B】姫と王子の秘密な関係




「よく頑張ったよ。
 音羽ちゃんが江島さんに対して、苦手意識が強いのは感じてた。

 だからこそ、自分が苦手意識を持つ存在とのコミュニケーションの取り方を
 覚えてほしかった。

 経営側に守ると、自分が苦手だからってそのスタッフを排除するなんて出来ないだろ。
 自分都合で、どうにも出来ないのが社会だから。

 今日はシフト入ってるの?」

「入ってません。
 
 朝、日報を作りに来ました。
 後は来たついでに、発注修正をしておきたくて」

「そう。
 だったら仕事が終わったら、道を挟んだ向こう側の角の喫茶店においで。

 一緒にこの後、過ごそう」


高崎さんはそうやって、ひそひそと私を誘ってくれると
何事もなかったかのように、事務所を出ていく。


防犯カメラ越しに、フロアーを動く高崎さんを追いかける。


棚の清掃チェックや、前出しの確認、商品の顔が正面に来ているかどうかなど
本部の視線とお客様の視線で、チェックしている様子が伝わってくる。



売上日報を封筒にいれて、バッグの中にセットすると
ドライバーに渡すための所定位置に置いて、発注の見直し。


この店舗に来て、初めて受け持ちことになったお弁当やおにぎりの発注。

天気や行事などで激しく変動する割に、商品の日持ちがしないアイテム。

廃棄になった商品の金額に溜息をつきながら、 
お店の損失にならないように、必死に数字を打ち込んでいく。


思い切って減らしてしまうと、お客様が来店した時にそのお弁当やおにぎりはない。
それはクレームに繋がって、固定客の損失に繋がってしまう。

だからって……いつ来るかわかんないお客様の為に、
必要以上に在庫を持つと、過剰在庫分が全て廃棄扱いとなってしまう。

廃棄=オーナーの買取りに近いわけで、
お父さんに負担をかける。



凄いプレッシャー。


一気に資格取ってから、
責任感を必要とする仕事を任されるようになってる。



 
そしてオープン5日目の明日はクリスマスイヴ。
今、発注してるのはイヴの日の発注だから、余計に気を使う。


どうにかこうにか、発注修正を終えて店舗を後にした時には
もう1時間ほど経過していた。


慌てて高崎さんと約束したその場所へと向かう。



私が辿り着いた時には、
高崎さんの傍には、凄く綺麗な女の人が近づいて話しかけていた。


目撃した途端に、足が竦んで動けなくなる。




「いらっしゃいませ。
 お客様、何名様ですか?」


声をかけられたスタッフの声を受けて、
高崎さんが、こちらを向く。

一緒につられるように姿を見せた後ろ姿美人の女の人は、
清楚な感じがする、本当の美人さんだった。



堪らなくなって、後ろを向いて私は待ち合わせ予定だった店舗から
駅に向かって走り出す。




高崎さんには、あんなに綺麗な彼女さんが居るんだ。


私に優しくしてくれたのも、
花火の日に、私を抱きしめてくれたのも、優しいキスも全部嘘なんだ……。


バカみたい、何も知らずに一人はしゃいで。


バカみたい……
明日は、せっかくのクリスマスイヴだったのに……。


涙が滲んでクリアに見えない視界。
周囲に注意を払えなくて、ぶつかって歩道に倒れこんだ私。


反射的に『ごめんなさい』って謝るものの、
万悪く、ぶつかった相手はガラが悪そうな高校生?



「ねぇ、謝罪だけ?
 こいつ、痛いって言ってるんだけど……」



口元にピアスをしてる子が、
ガラ悪く告げる。

その隣には、痛そうに肩を抑えて顔をしかめる子。




知らない間に次々と集まってきた6人くらいの高校生に
あっという間に囲まれてる私。


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