【B】姫と王子の秘密な関係
「ちょっとそこまで付き合ってよ」
脅しかけるように話す子と、にこにこ笑いながら同じ言葉を告げる子。
床に転がった鞄を抱えるように引き上げて、
ゆっくりと警戒しながら立ち上がる。
「君たち、音羽さんに何してる」
高崎さんの声が聴覚を刺激する。
「……高崎さん……」
私が名前を紡いだ声は、高校生たちの声でかき消される。
「なんだよ、てめぇ」
そう言って高崎さんに向かって襲い掛かった高校生たちは、
次々と高崎さんの手によって、歩道に転がされていく。
あまりにあっという間の出来事で、
あっけにとられていると、指し伸ばされた高崎さんの手は私の手をがっしりと掴んで
少年たちが転がってる現場から走り出していく。
起き上がった少年たちが、声を出して叫びながら
追いかけてくる。
「音羽ちゃん、こっち」
そう言って建物と建物の間の細い路地に入って、
私のコートで隠すように抱き留めて、声が通り過ぎていくのを待つ。
追いかけられて切羽詰ってるはずなのに、
さっきまであんなに怖かったのに、今は……高崎さんの鼓動を感じで
ときめいてる私。
付き合ってる彼女さんを目のあたりにして、
絶望を感じて、暗闇を歩いていたのに、今の私はそんなことがなかったのように
高崎さんに抱きしめられて、ドキドキしてる。
一度目は、
迷子の私を助けてくれた王子様。
二度目は、
熱中症で体調を崩した私に手を差し出してくれた王子様。
三度目は、
暴漢しそうな高校生のグループから私を助けてくれた王子様。
やっぱり私……、
高崎さんを諦めたりすることできないよ。
「行ったみたいだね。
だけど何時見つかるかわかんない。
その前に離れよう。
俺のマンションにおいで」
俺のマンション。
そうやって高崎さんが告げた言葉に、
更にときめく私。
細い路地を抜けて、大通りに出た時、
クラクションが鳴らされて、目の前にスポーツカーが横付けされる。
「晃介、こっち」
「由毅に頼まれた。
ったく、何やってんだよ。
アイツを心配させて」
スポーツカーの運転席から顔を出したその人は、
高崎さんのことを良く知ってるようだった。
「勇希さん」
「話は後。
ほらっ、乗り込め。
晃介の彼女も早く乗って。
後ろは少し狭いけど悪いな」
私たちが乗り込むと、
そのスポーツカーは一気に加速をはじめて、
その場所を離れていく。