スタートライン~私と先生と彼~【完結】
「・・・捜してないんやね」
電車に乗って、数分経った時、隆に言われた言葉に心臓を掴まれたような衝撃を受け、思わず変な声をあげてしまった。
「へ??」
「電車乗るといつも誰かを捜している感じやったから」
ドアから見える景色を見ながら、私とは目を合わさずに言った。
あぁ、気づいていたんだ・・・・・・。
隆といるのに他の人を捜していた私に対して、彼は何も言わなかった。
本当に失礼よね・・・・・。
彼に対する申し訳ない気持ちが生まれたのと同時に、もう会うことができたから、自然と捜さなくなってたことに気付いた。
「うん。高校受験の時に受験票を拾ってもらった人に、もう一度会いたかったから」
何を話しているんやろう・・・。
私も隆とは目を合わさずに、俯いて隆の足元を見るように話していた。
「会いたかったってことはもう会えたん?」
「うん」
外を眺めていた彼の視線が、自分の方を向いて話しているのがわかったので、顔を上げ、彼の笑顔を見ながらゆっくりと頷いた。
あえて性別もどこで会えたかも言わなかった。
そして隆も聞くことはなかった。うちの副担任なんて言えない。
理香にでも言われたら大変やし。
それ以上に隆に話すべきではないと思ったから、話すことができなかった。
「よかったね」
柔らかい笑顔のまま、喜んでくれているようだった。
「うん」
私は自分の表情が上手く作れてないのがわかった。
本当は、誰かに話したいのに、誰にも話せないから、ずっと胸の中でモヤモヤし続けている。
そんな気持ち、隆に言えるはずもない・・・。だから・・・今のこの状態が苦しくてしかたなかった。