メトロノーム
「…仕事辞めた」
彼は急に話し始めた。
何の仕事をしていたのかは知らない。
ただ正しくない仕事、というのは確かだと思う。それはこの怪我を見ればわかる。
「うん」
頷くくらいしか。
できることがちっぽけすぎて。
「働かないといけないのに」
彼が働くことにこだわるのには、事情があるのかもしれない。
未だに訊くことは出来ずにいるけれど。
「うん」
今思えば、このときのあなたは、私の知っている中で、唯一心を通った言葉を発していた。
この夜が、いちばん。