たゆたえども沈まず

懐かしい思い出に目を瞑りかける。プリンス先輩の放送が終わって、部長はまた鞄を椅子に放って横になり始めた。

「じゃあ戸締りよろしく」

「はいはい、勉強頑張れ若者たち」

「部長、今年が受験っていう自覚あるんですかね…」

プリンス先輩と放送室を出て、殆ど使われない非常階段を通って自分の教室まで戻る習慣をつけている。

雨の匂いはアスファルトの濡れた匂い。

放送室の籠もった空気とは違って少し冷たい。前を歩いていた先輩が振り向いた。

「クキ、勘当されたってね」

その口調がこの前かかってきたあの声とリンクする。私の周りには軽い口調の人間が多すぎる。

あれからどうしたのか連絡もないし、私も何もしていない。



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