呉服屋の若旦那に恋しました
「あ……」
挟まっていたのは、いつかの衣都が俺にくれた赤い糸のお守りだった。
撚った赤い糸を、台紙に蝶々結びにしただけの簡単なお守り。
糸がお守りなんて変かな? と、衣都は少し不安げだったけど、俺は嬉しくて仕方なかった。
俺と衣都の絆そのもののように思えたから。
俺が今も大事にこれを持ってるなんて知ったら、衣都はバカにするだろうか。
「……帰ってこいよ……」
1年前まで家にいないことが当たり前だったのに、寂しい。
世の夫はどうやって嫁を実家から呼び戻しているんだ? 教えて欲しい。
今ならドラマを好きに観ても怒らないし、チャンネル権はすべて託すし、衣都の好きなものを作ってやるのに。
「アホ衣都……」
“彼女は、一度も自分から俺を求めたことは無いです”。
そういやあの言葉、自分で言って自分で凹んだ。
そうだ、衣都は、俺から声をかけないと近寄ってきてくれなかった。
衣都から俺に手を差し伸べたことは無かった。昔から。
だから、きっと今回も、衣都の意思で俺の家に帰って来てくれることはない。俺が無理矢理連れ出さない限り。
……俺はテーブルに突っ伏して、衣都がくれた赤い糸のお守りを、指に絡めた。
そして、目を閉じた。
衣都と暮らしてから、どんどん欲が出てしまう。
一年前まで衣都がいないことは当たり前だったし、会うことも許されていなかったのに、今はたった3日会えないだけでこんなに凹んで、こんなに衣都を求めてしまっている。
きっと、欲にまみれた今の俺じゃ、そうすんなりとは衣都を手離せないだろう。
俺は目を閉じて、そっと想像した。