呉服屋の若旦那に恋しました


志貴の家の近くにある神社まで来た。

志貴と一緒に、いつもここでどんぐりを拾って遊んでいた場所。

私は、石段に蹲っている何かを見つけた。……それは、体育座りをして顔を膝に埋めている志貴だった。


「志貴兄ちゃん………?」


名前を呼んだのに、志貴はピクリとも動かなかった。何かがおかしい。そう感じた。

私はゆっくり彼に近づいて、頭を触った。


「志貴兄ちゃん、どうしたの? お腹痛い?」


志貴の空っぽになった財布が、賽銭箱の傍に落ちていた。


「何かお願い事をしてたの?」


それでも彼は、ピクリとも動かない。石のように、そこに蹲っていた。

私は彼の足もとに屈んで、彼を見上げた。俯いた彼のつむじしか見えない。


「志貴兄ちゃん、泣いてるの?」

「………っ」

「衣都が、いいこいいこしてあげる」


彼の頭をそっと撫でると、彼はしゃくりあげて号泣しだした。

私は、彼がなぜ泣いているのか知らないまま、ひたすら彼の頭を撫でた。


「……俺がっ、俺があの時桜のことを心配してぼうっとしてたからやっ……! 俺が、俺のせいでっ……!」

「志貴兄ちゃん……、大丈夫?」

「俺はもう、衣都に会う資格はない……っ、ごめん、ごめんな衣都、ごめん、ごめんなさいっ……」


志貴が、私をギュッと抱き寄せた。私のちいさな肩に、志貴の大粒の涙がにじんだ。

私は訳が分からないまま、立ち尽くした。


「桜にも……、もう会えへんっ……」

「え……? 桜ちゃん、会えないの……? 衣都会いたいよお」

「うっ……どうしてっ……」


志貴が、誰かが、こんな風に号泣しているのを、初めて見た。

私の左肩がどんどん濡れていく。志貴の体が震えている。声が掠れている。

小さいながらに私はいっぱい考えた。

考えたけど、答えは全然でなかった。

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