呉服屋の若旦那に恋しました
「いいか、あんまり俺を意識するなっ」
「志貴があんなことするから!」
「キスしかしてないだろ!」
「だけじゃない! 胸も触ろうとした!」
「その瞬間お前常人ではない速さで俺の手捻ったから未遂だったろうが!」
「そういう問題じゃないのー!」
私はうわああと嘆いて顔を覆った。
志貴を男の人として完全に意識してしまっている自分が恥ずかしい。
それなのに志貴はいつもと変わらない態度。むしろあたりが強くなってる。
彼はそんな私を呆れたような表情で見て、はあ、と溜息をついた。
「いいか衣都、プライベートならどんだけ俺を避けたってかまわない。でもここは職場なんだ。真面目にやってもらわないと困るし、中本さんだって戸惑ってる」
「う」
「今誰が職場の空気乱してるのか、分かってるのか?」
「………ごめんなさい……」
「おう」
志貴の正論に、私は何も言い返すことはなかった。
そうだ…確かに中本さんは戸惑っていたし、職場の空気を乱してしまっていた。
志貴は普段ふざけてるけど、仕事に対してはとても真面目だ。
それだけこの店を継ぐ責任の重さを自覚しているし、この店を誇りに思っているんだと思う。
反省し落ち込んでいる私に、志貴はでこぴんをした。
「衣都、分かったよ」
「え」
「俺が触ると衣都は集中できないみたいだし、暫く衣都に触れないことにする」