ラブレター2
「いやぁ、あの花火を見せたかったんだ。」

あいが好きな歌手が、車の中で唄っている。

「嘘だぁ。」

再度、来た道を運転しながら、笑うあい。

偶然だったのだろうが、よく言うよね?

偶然は必然的だ。って。

「さっ、何処に行こうか?」

雪が、少しだけ降り始めてきた。

夏に見た花火もいいけれど、冬に見るのも乙だなぁ。なんて、君はそんなこと、どうでもいいのかな?

あのファミレスに着き、荒れてくる雪を、暖かい室内から見守る。

「何か食えよ。」

あいと、いることが嬉しい。なんて、僕には言えない。

「これにしようかな?ん~。でもな~。」

あいの細い指が、様々な料理達を載せたメニュー表の上を、行ったり来たりしている。

「あい、これでいいや。」

見慣れたパートのおばさんが、オーダーを受けに来た。

僕は、甘い物が好きだから、いつも決まって、パフェ(抹茶)を頼む。

「これ、冬限定だって!!」

デザートが数種類だけ、新しいのが出たみたいで、目が輝いてるあいの気持ちも分かる。

僕も、目を輝かせていただろうから。

「飯食ったら、食べなよ。」

「うん!!」

「太るよ?」

「いいも~ん。」

いつもの会話をして、いつもの笑顔のあい。

「好き?」

自分に自信が無いから、いつも気持ちを満たされていないと駄目なんだ。

その質問に、その笑顔で返されても、言葉にしてほしいくらい。

その考えを笑うように、雪が激しくなったなぁ。と思うのは、気のせいなのかな?

「あっ、来たぁ!!」

突然、新商品が現れた。

「チョコレートが、沢山積まれていますが、あいちゃんのお腹は、大丈夫なんでしょうか?」

それを一口含んで、美味しい。って、微笑む姿。

「あー。あいの脂肪が…。」

はいはい。と、僕の性格を知っている笑顔。

ただ、そんなことを言うだけのことで、あいの身体は綺麗だった。

「ねぇ、どうする?」

そう言えば、あいは、今日親戚の家に行く。と言っていた。

それなのに、無理してまで一緒にいてくれて、ありがとう。

「車に乗ってから決めようか?」

僕らの旅は、いつも無計画。

優柔不断な二人が店を後にして、濡れた階段を滑り落ちないように、雪に襲われても、ゆっくりと、一歩一歩下りて行く。

「寒い。」
「寒い。」

車へ駆け寄る二人。

「出発進行!!」

お~、あいくん、元気がいいね。

「右見て、左見て、巻き込み…良し。」

免許を持っている人が、自慢気に、何かを言っている。

「おい。ライト。」

おいおい。危うく、僕らの目的地が…。

「何か暗いと思ってたんだ。」

この初心者が。と言って、若葉マークを既に取っている悪い子が、また僕の隣りで笑う。

「どこに行く?」

僕は、初めてデートした、球場と呼ばれる公園を、提案した。

「うん、分かった!!」

凸凹道を進むに連れ、街灯が減っていく。

「あっ、やっぱり、あそこにしよう?」

あいからではなく、僕が行き先を直ぐに変更する。

田舎街にある、小さなスーパーマーケット。

夜中だから、勿論、辺りは暗く、静かな空気が流れる。

普段は敷き詰められた車が、綺麗に横並びにされているのに、今はたったの一台だけが、ポツン。と止まっている。

「凄い。」

僕らを待っていたように、再び雪が舞い降りる。

「ねっ。」

車の中は、暖かい空気が回っている。

しかし、エンジンを切ると、それも一瞬で止まる。

「今日、大丈夫?」

もう、午前三時を指している。

「うん。大丈夫。」

シートを倒して、寝転ぶ二人。

「あい。」

沈黙に負けて、あいにキスをした。

「なぁに?」

もう一度キスをして、笑う二人が、ここにいる。

「好き。」

何度もキスをするうちに、あいを求めてしまう。

「しよう?」

突然の言葉にあいは、

「ここで?」

と、笑って言うから、うん。って、甘えてみる。

「車の中でしたことないから、仕方分かんない。」

あいは戸惑いを隠せず、僕は嬉しさを止められず。

「俺だって初めてだよ?あいの初めて、頂戴?」

あいは、少し笑って、

「いいけど、寒い。」

一度消えたエンジンを付け直し、車内が暖まるのを暫し待つ。

もう、いいかな。と思い、キスをすると、

「誰か来たら、どうするの?」

窓は雪で埋め尽されていたが、その不安は僕にもあった。

「見せ付ければいいさ。」

えー。と返事が帰ってきたが、愛しい気持ちは、当然止まらない。

君の初めてを、全部欲しい。なんて言ったら、笑われるかな。

それだけが、小さな僕の、恋に臆病な僕のできる、不安への細(ささ)やかな抵抗。

一つに繋がっている時は、いつも、気持ちが溢れる。

言葉も漏れる。

それくらい、本当に愛しいんだ。

今、大好きなんだ。
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