喩えその時が来たとしても
 
 兄貴のわがままに付き合ってペットショップに行った俺達は、兄貴の乗り移ったジャンガリアン種ではなく、キャンベル種という雌スターを購入した。素人目には、まんまジャンガリアンと見分けがつかないのだが、遺伝子レベルでの違いが有るらしい。交配は可能だが、劣性遺伝の可能性も否めないのだそうだ。

『この毛並みと肌の具合が堪らん、とおっしゃってます』

 そう言えば兄貴のDVD。巨乳物の中には欧州物もかなり混ざっていたっけ。寒い所の白人は、肌の極めが細かいから良いんだとか言ってたな。

「でも兄貴、ハム語は解るのか? 彼女をモノに出来るのか?」

『そんなん解る訳ねーだろが。突然乗り移っちまったんだから。でもな、言葉が通じなくてもホラ、本能で乗り切りゃいいんだよ』

 まあ確かに、だがそもそも何で動物に乗り移ったんだっけ。兄貴は何でこの世にとどまったんだ? そうそう、俺の運袋に穴が開いてるって話だ。って俺の思考がやっと本題に戻った時、馬場めぐみが台所でゴソゴソやっているのに気付いた。

「ああめぐ、お茶なら俺が入れるって! 今日は付き合って貰ったんだから特にさ、ゆっくりしてろって!」

 出勤の時に見る、少しアクティブな感の有る普段着とは違って、今日はなんだか弛めのフワッとしたファッションに包まれている彼女。アイボリーの透ける素材で出来たドレスがその下の肌をやんわり覆っていて、これはこれで妄想を掻き立たせてくれる。

「でもぉ、こういうのって彼女がやった方が良くないですか? 調味料の場所とかも覚えたいし、先輩にしてあげたいんです」

 してあげたい……シテアゲタイ……シてあげたい……なんて淫靡な響きなんだろう。馬場めぐみが俺の為に何かをシてくれる。それって『ご奉仕』……馬場めぐみが俺にご奉仕してくれるだなんて……。

 頭の中をピンク色の妄想が駆け巡る。めぐ駄目だ、イケナイめぐ、兄貴が見てる……って兄貴。

「なんだよ兄貴、ちゃっかりヤってるじゃんか!」

 人が妄想に耽っている隙に、早速キャンベルちゃん(仮称)へ馬乗りにイヤ、ハム乗りになってヘコヘコやっている兄貴。

『おうよ、どうやらコイツ発情期だったらしい。尻をひと撫でしたら、アッサリ尻尾を持ち上げてな……ああっ! 滅茶苦茶気持ちイイ、人間だった時よりも10倍はイイぞ!』

 畜生、兄貴は俺の馬場めぐみに何を言わせやがってるんだ! 彼女は耳まで真っ赤になってハム太郎の言葉を伝えた。


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