喩えその時が来たとしても
 
 なんて事なのっ。いきなり先輩が胸を揉んでくるなんて! 私の事を女として見てくれてないって思ってたのは全くの思い過ごしだったのね! ああ、先輩も一皮剥けばあの渕さんと少しも変わってなかったって事ねっ。

 今日家族が買い物に出ている事を思い出した私は、家へ帰っても何も食べる物が無いので、ほか弁屋さんで唐揚げ弁当でも買おうとあそこへ寄ったのに。普通なら絶対出くわす筈もない先輩が何故か居たの。私も運命論者では決してないんだけど、さすがに「これは何かの御導きなのかも」なんて思って、先輩と話した。

 そしたらアレだもん。驚いてひっぱたいちゃうのも仕方ないわよ。

 ……でも……

 渕さんから揉まれた、罪の象徴であるこの胸を、先輩が揉む事で私への免罪符を与えてくれたと考えたらどう? それに甘えちゃう? でもでも、それは只の私見でしかない。岡崎先輩がそう言って私を赦してくれた訳じゃない。ムシが良過ぎるわ。

 そう考えながら私はいつの間にか自分の胸をきつく握り締めていた。ああ、結局お弁当を買いそびれちゃった。近くのコンビニでサンドイッチでも買って帰らなきゃ。

 そうしてコンビニに入っても男の視線が気になる。みんなジロジロと私の胸を見ている。まだ人間が猿だった頃、四足歩行をしていた視線の高さはお尻。だからメスはお尻を赤くしていればオスの羨望を集められた。人間となり、二足歩行をするようになってセックスアピールは胸へと移った。だから男達は私の豊満な胸を見るの、それは自然の摂理、本能の有利、当然の真理。そして男共は頭の中で私を凌辱しているに違いない。

 そうやって私を穢すがいいわ。私自身、穢れ切ってしまえば僅かな望みに一喜一憂する事も無いんだから。そうすれば私も諦めがつくもの。

 私はわざと胸を見せ付けるように背筋をピンと伸ばして、用もないスイーツコーナーを物色する。男共の目は皿のようになって私の揺れる双房に釘付けになる。棚の陰から、通路の奥から刺さる視線に貫かれ、淫らな私の泉は充たされる。

 これが私。

 体裁ばかりを繕っていても、本質は快楽主義のキタナイ女。プラトニックには程遠い肉食系女子。

 見ず知らずの男から視姦されるがままのこの状態に酔っている、貪欲なセックスドランカー。

 嗚呼……こんな私を知ってしまったら、先輩だって嫌になる筈。こんな私を抱いてしまったら、先輩その物が穢れてしまう。


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