殺戮都市
そんな理沙の前に膝をついて、ダラリと垂れた腕を胸の上に置いて手を握る。


何も言わない理沙。


元の世界では、手を繋ぐ事すら滅多にしてくれなかった。


「ほら……俺、今理沙の手を握ってんだぞ?いつもみたいに『恥ずかしいからやめてよ』って言えよ」


親指でゆっくりと理沙の手を撫でる。


さっきまでの殺伐とした空気が嘘のように、今は穏やかな空気に包まれている。


物言わぬ理沙の、唯一の救いは……この安らかな死に顔。


恐怖に引きつっているわけじゃない。


まるで何かから解き放たれたかのように、安らかな表情だったから。


「何でそんな良い顔してるんだよ。俺にはいつも怒ってるような顔してたくせに」


ツンと頬を指で突いてみる。


手もそうだけど、頬からも温もりは消えていて、命の灯が完全に消えているという事を痛感させる。


もう……笑い掛けてくれる事も、怒る事もないんだ。


この街に来て、色んな男達に良いようにされて……そんな理沙を、どうしてあの時引きとめられなかったんだ。


何度考えても、あの時の事を悔やんでしまう。


もう……辛い想いをしなくても良いんだよな。
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