恋の神様はどこにいる?

「なんで辞めた?」

2オクターブくらいは下がっただろうか。志貴の声が、一気に冷たいものへと変わる。

私が仕事を辞めたところで、志貴にとやかく言われることじゃないけれど。昨日の今日だから、志貴の反応もわからなくもないわけで。

「ちょっとあって」

いくら相手が志貴でも、辞めることになった理由はさすがに言いにくい。

「ちょっとって何? 俺には言えないこと?」

「そういうわけじゃないけど……」

元カレにあらぬ噂を立てられて、飛ばされそうになったから上司に啖呵きって辞めてきた。なんて、あまりにもオマヌケでカッコ悪すぎる。

かと言って言わなきゃ言わないで、志貴に攻め寄られそうだし……。

どう言ったら志貴が納得してくれるかとひとり考えていると、志貴がトンと箸を置いた。

「元カレに何か言われたか?」

「え? なんで、そんなこと……」

「おまえは考えてることが、全部顔に出るんだよ」

千里さんもそんなようなこと言ってたけれど、私ってそんなにわかりやすい顔をするのかしら?

志貴にズバリと言い当てられて、仕方なく俯きがちに言葉を紡ぐ。

「直接言われたわけじゃないんだけど。社内の人に、私と付き合ってひどい目にあったとかいろいろ言ったみたいで。会社に行ったら、移動の辞令が下ってた」

アハハなんて、面白くもないのに笑ってみたりして。無理にでも笑ってないと、涙が零れそうな自分に驚いてしまった。



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