恋の神様はどこにいる?
それは、香澄の前で泣いたのとは違う意味の涙。
あの時は私の存在の意味ってなんだったんだろうと思うと悲しくて、どうしようもなく悔しくて泣いてしまったんだけど。
今のこの気持ちは……。
どう例えたらいいのかわからない。ただただ溢れそうになる涙を、唇を噛んで必死に抑えた。
志貴に顔を見られたくない。俯きがちだった顔を完全に下へ向けると、志貴がガタッと椅子を動かした。
そんなことで辞めるんだって、呆れて帰るのかな。
そうだよね。『会社を辞めるつもりなんてない』なんて息巻いて言ったくせに、翌日には会社辞めてきたなんていう女なんて相手にできないよね。
目の前から志貴の気配がなくなり、やっぱり……なんて、ふいに感じる寂しさに顔を上げられないでいると、突然引っ張り上げられ身体が傾いた。
え、なんで?
顔を上げるとポフッと何かに倒れこみ、そのまま包み込まれてしまった。
「ったく、俺の思った通りじゃないか。たかが一ヶ月か二ヶ月しか付き合ってないのにセックスできなかったからって別れるなんて言う男は、ろくでもねー奴だってーの。小町って、男を見る目全然ないのな」
頭上から声が落ちてきて、今自分が志貴に抱きしめられていると認識する。
いつもの私なら、どうして抱きしめたりするの? なんて聞くんだろうけれど。今の私にはそんなことどうでもよくて、自然と志貴に身体を委ねていた。