恋の神様はどこにいる?
「ちょ、ちょっと待って。小町ちゃん!!」
千里さんの私を呼び止める声にも振り返らず、そのまま走り続ける。
外は相変わらずの雨。でも今はそんなこと、かまってられない。傘もささず外に飛び出すと、びしょ濡れになったまま走り続けた。
千里さんのこと。きっと私の異変に気づいたはず。だとしたら、もう志貴に何らかの連絡は入ったかもしれない。
志貴は私のこと、追ってきてくれる?
なんて。結婚相手の五鈴さんが来ているのに、そんなことするはずないじゃない。
ゆっくり足を止めると、その場にしゃがみ込んだ。
梅雨入りしてから一番の大雨で。社務所を出てすぐに、下着まで濡れてしまっている。今更しゃがみ込んだって、どうってことはない。
「私ひとりで馬鹿みたいじゃない」
五鈴さんという存在を知ってから、それなりの不安はあったけれど。でも志貴が時々見せてくれる優しい表情や仕草、何かを期待させるような言動に、もしかしたら志貴も私のことを好きでいてくれている? なんて思っていたのに。
私の勝手な、ひとりよがりだったみたい。
だらりと下げていた右腕をゆっくり上げ、人差し指でそっと唇に触れる。雨で濡れた唇は、冷たくなっている。
「キス……したくせに」
志貴にとってのキスは、私が思っていたものと違っていたのかな。
“罰”と言って与えられたキスは、所詮“罰”ということだったのかもしれない。
都合がいいことに、どれだけ涙を流しても、雨が素早くその痕跡を消してくれて。大声で泣き崩れても、雨音がすぐにかき消してくれる。
今だけ。泣けるだけ泣いて涙が全部枯れたら、またいつもの元気な私に戻るから。
神様が与えてくれた次の恋の相手が、志貴じゃなかっただけ。
だったらまた新しい恋に出会えるように、一から始めればいい。
だから今だけ、泣かせて……。