恋の神様はどこにいる?

見なかったことにしようと静かに冷蔵庫のドアを閉めると、財布を手に握り玄関を飛び出した。

まだこの時間ならスーパーが開いている。手料理を振る舞うことはできなくても、何か簡単に食べれるものくらい用意しておこう。

階段をテンポよく降りると、歩いて五分のところにあるスーパーへと歩き始めた。

志貴、まだ来ないよね? もし私がいない間に来たとしても、少しぐらいは待っててくれるはず。

なんて勝手な思いを巡らせながら歩いていると、後ろから車のクラクションが聞こえた。その音に驚き反射的に振り向くと白いライトバンが停まっていて、中には見覚えのある顔があった。

「志貴?」

私が志貴の名を呼ぶのと同時に彼は車から降りると、私に向かって歩き出す。

こちらに向かって来る志貴の顔は何故か怒っていて、私は何も悪いことをしていないのに少しずつ後ずさりを始めた。

「おまえ何やってんだよ? っていうか、動くな!!」

「そんなこと言ったって、足が勝手に動くんだからしょうがないでしょ!!」

我ながら、自分が言っていることがおかしくなってくる。でも本当に動いてしまうんだからどうしようもなくて、一歩また一歩と下がっていった。

「止まれよ」

「志貴が止まったら、私も止まる」

なんて言葉を交わしている間にも志貴はまっすぐ私に向かって来ていて。後ろ向きで歩く私のスピードなんてたかが知れていて、あっという間に腕を取られてしまった。




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