愛情の鎖
「お前、いい声してんな…」
それが彼女にかけた第一声。梨央と初めて言葉を交わした瞬間だった。
思ったより大人びている。写真で見るよりも目鼻立ちもはっきりしていて、世間一般から見たら美人に分類されるだろう。
俺は静寂な空の下、そんなことを思いながら、こちらに振り向いた彼女に初対面とは思えないほどの態度で馴れ馴れしい言葉を向けた。
「ああ、別に怪しいもんじゃねぇから安心しろ」
あまりの強張りように、思わず苦笑いを浮かべそうになった。
あからさまな彼女の怯えよう。
「それ、今のってなんの曲?」
「…あの……」
まあ、そうなるのも無理はねぇ。
こんな夜中に、突然現れた見知らぬおっさんに話しかけられてんだ。それが普通の対応だってもんだ。
「宗一郎さんのお知り合いですか?」
「……は?」
それで会話は終了。
焦ったように慌てて俺から背を向けた彼女の姿に俺は「おい……」と言葉を残して、しっかりとその姿をこの瞳に焼き付けた。