妄想世界に屁理屈を。


“だ、りん…は”


アカネが、小さく声を出す。


答えたように女の背後に男が現れた。


長めの黒髪が綺麗な美男子だ。


はっとするように冷たく、真っ黒な美しさ。

見下すような視線に、心臓が捕まれたように痛くなる。


“だありんっ!”


アカネが絞り出したような、喜びに満ちた声を出した。


ふわりと、彼が笑う。


――アカネに向けてじゃない。女に向けて。



「どうしたの、由美」



「あ、ううん。なんでもないの」


くるりと女の顔に差し替えた彼女は、甘い顔を彼に向けた。


“な、ん…”


「こ、黒庵さまっ!」


たまらずミサキくんが叫んだ。。

「誰、このメイド服」

無視。


「俺なんかどうでもいいだろ…アカネ!!大丈夫か!」


アカネが叫んでからの気配がない。



計り知れない絶望感だろう。



愛し合った彼が、全く別の女性に同じ笑顔を向けている。

そんな、生地獄。


叫ぼうにも叫ぶための喉がない。

抱き締めようにも腕がない。


存在が、伝わらない――
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