妄想世界に屁理屈を。


「驪!!!!」



黄龍さんが慌てて下に降りてくる。


ずっと神様宜しく俯瞰していたのに、その事態ではなくなったのだ。



「なにしてんの驪!だめじゃないっ…」


「私の子供たちを殺した!それ以外なんの理由がありますか!」



驪さんには似合わない、怒りの感情。

血しぶきを浴びて呆然とする黒庵さんを、驪さんはそっとだきしめる。


「生き返ってくれて本当によかった…!」


抱きしめながら涙を流し、その後地に伏した赤龍をゴミを見るように見下した。




「痛いですか?辛いですか?それが、私の子供たちが経験した辛さです」




真っ直ぐと、諭すように。


「赤龍…私はあなたときちんと分かち合える日をずっとまってますよ」



「おのれ…黒龍め…!」


体の半分を切られながら、それでもまだ会話ができるのは神様だからだろう。



転がった水晶を回収する驪さんをみながら、恨めしそうに。





「お前となどと分かち合える日なぞ、一生ないわ!」



そう言うと赤龍はふっと、まるで最初からいなかったかのように姿を消した。


神々は偏在するーーきっと別の場所に移動したのだろう。



「驪ちゃん…」

「黄龍、ごめんなさい。深手は負ってますが、神なのでそうそう死ぬことは無いと思いますよ」


にこりと、心配そうな顔をする黄龍さんに言う。



子供たち鳳凰は突如の出来事に静まり返ってしまったが、ぽかんとしていられなくなった。




ガラガラと岩場が崩れだしたのだ。





「!いけません!私が赤龍を倒したばかりに、異界の維持ができなくなったみたいです!」


「と、とりあえずにげるのじゃ!柚邑、スズ、立てるか?」


「大丈夫です!行こう、スズ!」


スズの手を引いて岩場を走る。


洞窟のようなここは迷路になっており、多少時間はロスしたが、何とか抜けきることが出来た。



そして瞠目した。



「なにあれ…」

思わず呟いた。

さっきまでヤマタノオロチ伝説の中にいたのに、今はもう、全くの別世界にいたのだ。




深い深い森の中、白い湖がひとつに、真ん中にぽつりと大きな竹。



さっきまでとはガラリと違う光景に、しばらく呆然とした。
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