わきみち喫茶
ウッと口を噤む彼がどこかいたたまれなくなり、声音を優しくしてもう一度声をかける。
「大丈夫、君ならできますよ、それに今日のお客様はこんなに素敵な方じゃないですか、何も心配することはありません」
咄嗟にうつむいた女性に温かい眼差しを向けると、エプロンを外してカウンターを出る。
背中に視線を感じるが振り返ることなく扉に手をかける。
「じゃあお願いしますね」
パタンと後ろ手に扉を閉めて顔を上げると、暮れかけた午後の日差しが路地を照らしていた。
もちろん買い出しだなんてただの口実、だからただなんとなく足を踏み出してみる。
足の向くままひたすらに歩いてみる。
路地を出ると、家路を急ぐ人の群れが目に入った。
その流れに時には従い、時には逆らい…あの時と同じように、なんの目的もなくただひたすらに歩く。
「梨香…晴人君は、まだ少し頼りないけど、でも一生懸命頑張っているよ」
見上げると夕焼けが目に眩しかった。
「だから大丈夫、何も心配はいらないよ」