ギャルとメガブス
私は、誰もいない放課後の音楽室が好きだった。


ギャアギャアとカラスのように姦しい子供たちがいなくなった音楽室には、心地良い緊張感と、古い校舎ならではの黴臭さが漂っていた。


子供の私には、まるでそこが由緒あるヨーロッパの荘厳な音楽堂のステージのようにすら思えた。


晴れた日には、窓から差し込む西日が、教壇脇に据えられたグランドピアノに反射して、神々しいまでに輝いていた。私はよく妄想した。


ここは、私のステージだ。


現実世界の地味で「メガブス」な私ではなく、真っ白なドレスを着て胸に花のコサージュを飾った、まるで少女漫画の主人公のようにカワイイ私が、ステージの中央に静々と立つ。

沸き立つ歓声。

私は優雅にお辞儀をする。

そして、膨らんだドレスの裾を気にしながら、ゆっくりと椅子に座る。

慎重に楽譜をセットして、呼吸を整える。

瞳を閉じて、息を吐き出し、そして長い睫を揺らして、再び瞼を開く。

さあ、演奏会のスタートだ。

指先は力強く、しかしあくまでも柔らかく、踊るように鍵盤を叩く。



いつかテレビで見た、パリのコンクールで優勝した日本人女性の美しい演奏姿に、自分自身を重ねて。
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