年下オトコたちの誘惑【完】
「杏。クチ、開けて」

数ミリしか距離がない、わたしたち。碧都の息が、わたしの口元をくすぐる。

喋ったらいけない、と隙を見せないよう、小さく顔を横に振り(ダメ…)と目で訴える。

しばし見つめ合うこと、数秒。少し距離を取った碧都の手が動き、わたしの顔にゆっくりと割れ物を扱うように、置かれた。

「……泣くなよ」

そんなこと言うくらいなら、最初からこんなマネしないでほしかった。

そんなに、苦しそうな顔するなら、キスなんてしないでほしかった。

思えば思うほど、涙は止まらなくて。わたしの涙に、どんどん碧都の顔も変わっていって…。

碧都は、ゆっくりと身体を起こすと、遠慮しがちに腕を伸ばしてきて、わたしの頭をポンポンと二回ほど撫でた。

そして、目を細めて笑うと。

「ごめんな、もう杏の嫌がることはしねぇから」

それだけ言うと碧都は、静かに部屋を出て行った。

「なに、それ…」

意味、わかんない。わたしの心を掻き乱しておいて、やることだけやって(キスだけだけど…)あんなセリフ言い残していなくなるとか‼︎

「なんか、疲れた…」

わたし、なにやってんだろ。会社を辞めて、フラフラして。

眞一郎に出会って、楓と尚樹と、そして碧都に出会って。

なぜか働くことになって、急に逆ハー状態になって。

楓以外にキスされて、なんだか知らないけど碧都に振られて。

「一日で、色んなことありすぎだよ…」

あー、瞼が重くなってきた…。ちょっとなら、いいよね。

ちょっとだ、け……。

そのままわたしは、深い眠りに付いた。
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