彼氏人形(ホラー)
葵君が足を止め、実紗を見下ろす。


実紗は蒼白顔をして葵君を見上げた。


「実紗、もういいから」


あたしは痛む体を起こして実紗を止めた。


これ以上なにか言えば、実紗の身が危険だ。


しかし、実紗は言葉を止めなかった。


「あたしにとっては陽子の方が大切よ」


静かに、しかししっかりとした口調でそう言ったのだ。


葵君の表情がみるみる険しくなり、怒りに震えるのがわかった。


「なんだと……?」


「実紗、もうやめようよ。葵君に謝って……」


恐怖で声が震えた。


実紗の肩に伸ばす手も震えていた。


「何度でも言うわ。あたしにとって葵より実紗が大切よ」


葵君が実紗を掴んでいる手に更に力を込めるのがわかった。


でも、実紗は表情を変えない。

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