極上な恋のその先を。
「……ッ……」
はあ、はあッ!
一瞬、その場の空気が止まった気がした。
うんん、確実に止まってた。
だって、皆が一斉にあたしを見て、ポカンとしたんだもの。
興奮と、怒りで何がなんだかわからない。
とにかくあたしは、美優の制止を振り切って、とうとうお父さんと会長たちの前に飛び出してしまった。
「君は……」
お父さんが、ハッと目を見開いて思い出したようにつぶやいた。
あたしは、ペコリと頭を下げて、もう一度佐野会長に向き合うように視線を上げた。
「なんだね、突然」
眉間にググッとシワを寄せて、怪訝そうに見下ろす佐野会長。
その背後で、中年の女性とご令嬢が困惑気味に顔を見合わせている。
あたしは、唇をキュッと引き結んだ。
背筋を伸ばして、少しでもちゃんと伝わるように……。
「私は、久遠センパイと一緒にチームを組んでいる佐伯と言います」
「佐伯? 知らんな」
あたしなんかの言葉を、この分からず屋の会長がどこまで聞き入れてくれるかわからない。
けど、やる前から諦められない。
「お言葉ですが、会長!
会長は、センパイの事を何も知らないんですね」
あたしが突然何を言い出すのかと身構えていた会長は、「は?」と気の抜けた返事をした。
「知らないだと?知らなくてもいい。そんな事しなくても、私には彼をこの会社から追い出すことだって出来る」
ふふん、と勝ち誇ったように笑う会長。
その会長の笑顔に、あたしをグッと目を細めた。
「そんなの無理ですよ」
今度はあたしが、ふふんと笑って見せた。
会長は持っていたスマホを胸ポケットにしまうと、あたしに向き直った。