極上な恋のその先を。
「君は、佐伯と言ったな。よーく覚えておく。さ、もう帰ろう。バカバカしい」
会長は、奥さんと娘さんをエレベーターへと促しながら、チラリとあたしを睨んだ。
「会長はセンパイをわかってません!社内でセンパイがなんて呼ばれてるか知ってますか?」
そう言っても、こちらを振り向こうとしない会長に、あたしはさらに続ける。
「仕事のことになると、熱心に取り組む姿勢が上層部から買われてる。
頭の回転が速く、決断力、行動力もある。
さらにはモデル並みのあの容姿。だけど、言葉使いが荒く、短気。
気に入らないとキレる、仕事以外は無関心。
久遠センパイは、社内ではこう呼ばれてます。
鬼、悪魔、大魔王って」
「……渚ちゃん、ちょっとそれヒド過ぎ」
「大魔王ってなに?」
背中の方から、たまらずに吹き出したって感じの柘植さんと美優の声がした。
ちょ、ちょっと大げさだったかな。
カーッと頬がアツくなる気がして、慌てて俯いた。
「だからなんだね」
呆れたようなため息にハッと我に返る。
あたしは大きく息を吸い込んで、会長を真っ直ぐに見た。
「……センパイが、今のセンパイになるまで、きっと誰も知らないところで、すごく努力してきたんです!
それは、センパイの作ってきた道であって、会長が作った道じゃない。
久遠センパイなら、それがどこであっても、きっと今のセンパイになっていました」
会長がジッとあたしを見つめている。
うんん、会長だけじゃない。
ここにいるみんなの視線を感じる。
息がつまりそうだけど……でも、不思議。
「だから、久遠センパイを思うままに動かそうなんて、きっと誰にも出来ないんです!」
その中で、あたし、ものすごい解放感を感じていた。