極上な恋のその先を。
それは、仲の良さそうな家族写真。
穏やかな笑みを零すお父さんお母さんの間に挟まれて、照れくさそうにはにかんでいる、学ランに身を包んだ中学生くらいの男の子。
「和泉の中学の入学式の写真だよ」
「わあ、かわいい」
真っ黒で短い髪。
幼さい輪郭のその表情。
意志の強そうな目とか、眉とか、スッと通った鼻とか。
ちゃんと面影がある。
パリで見た時と、同じ笑顔のセンパイがそこにいた。
「この1年後、母親が病気で亡くなってね」
「え?」
お母さんが?
ハッと顔を上げると、センパイのお父さんは写真を見つめたまま少しだけ寂しそうに眉を下げた。
「それから、男ふたりで過ごしてきたんだけど。学校から呼び出されることもなかったし、ほんとに”良い子”だった」
「……」
「親心ってのは複雑で、それが少し寂しいって思うんだから面倒だよね」
お父さんはコーヒーを口に運びながら小さく肩を揺らす。
その下がった目じりが、ふとセンパイと重なった。
「和泉もいい歳だし、そろそろいい人でも見つけて幸せになって欲しいって思っていたんだ。そう思っていた所に、今回お見合いの話を持ちかけられたんだけど……」
コクリと、喉が鳴りゆっくりとカップがソーサーの上に戻された。
「和泉が、言ったんだ。『迷惑かけるかもしれないけど、ごめん』って」
「え?」
ごめん?
キョトンと首を傾げると、お父さんはニコリと笑った。
「私には、それが嬉しくてね。あはは。 今まで和泉に困った事なんてひとつもなかったから、今私はすごく嬉しいんだよ」
「……」
「……だから、今回の事は心配せずに、私に任せてくれないかな?」
センパイのお父さんはそう言うと、嬉しそうに微笑んだ。