極上な恋のその先を。
グイ!
いきなり腕を掴まれて、気が付いた時には背中にヒンヤリとした壁の感触。
薄暗いオフィスに引き戻されたあたしは、懐かしい香水の香りに包まれていた。
「……どこ行くんだよ?」
低くてかすれた低音。
その声は、わざとらしく耳たぶをかすめ、ついでにあたしに流れていた時間を止めた。
……ドキン
ドキン、ドキン
鼓動を忘れていた心臓が、思い出したかのように全身に血を巡らせる。
そのせいなの?
め、目眩がする……。
「あ、あの」
目の前には、なぜか久遠センパイがいて。
ジト目であたしを睨むと、逃げ場をなくすようにその手が顔の横に伸びた。
「……センパイ、ここ会社ですよ?」
素直じゃない。
本当は、こんなにドキドキしてる。
なのに出てきた言葉は、こんなので。
自分が嫌になる。
「うるせえ。もうずっと我慢してたんだ。こんくらい許せ」
……な、なんてこと言うんですか。
恥ずかしくて顔から火が出そう。
それはあたしもだよ。
だけど、ここはオフィス内。
いつ誰がくるかわからない。
真っ赤になって戸惑っているあたしに、センパイはさらにその距離を詰める。
その声色は、真剣そのもの。
だからあたしはわけが分からなくて……。
嬉しいのか、相変わらずこんなふうに振り回されて悔しいのか。
なんだか頭の中が、グチャグチャだった。