Sweet Rain
弟たちを部屋の中に入れた後、とりあえず僕がしたことはバスタオルを渡したことだった。

2人ともリュックサックを担ぎ、頭から全身びしょ濡れだったので、風邪など引かれたらたまらない、と思ったのだ。

「っくしゅ!!」

僕らの間に会話はなかった。

その代わりに、彼女はクシャミを何度も何度も繰り返していた。

「大丈夫?」

「うん」

弟と彼女は小声でそう交わしていた。

僕に聞こえるか聞こえないかくらいの消え入るような彼女の声が、少しだけ懐かしさを感じさせた。

「っくしゅ!!」

「シャワー、使っていいぞ」

見るに見かねた僕は、2人にシャワーを浴びるよう促した。

弟は素直に喜んでいたが、彼女は当惑した表情のままだった。

恐らくは色々と思うところがあったのかもしれないが、無理に勧める理由もなかったので彼女の反応を待つことにした。

しばらくの沈黙が降り立ったが、それを打ち破ったのは弟だった。

「使わせてもらおうよ。大丈夫、俺の兄貴だし、心配することはないよ」

コクリ、と頷き、「すみません」と小声で呟くと迷うことなく洗面所のほうへと駆け寄った。

「よくわかったなぁ……」

「さっき兄貴がタオル取りにいったからだよ」

「あぁ…」

それだけでわかるものなのか? とも思っていた。
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