聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~約束の詩~
第二章 深碧の湖

その森の中の淡い緑色の神殿は、うっすらと朝靄にけぶり、きらきらと朝日を受け輝く光の粒子をまとって、神話の中から抜け出してきたように美しかった。

神殿から現れた人物を見た時、リュティアは生まれて初めて冠雪の雄大な山々の連なりを見た時のような気分になった。それほどにその人物は圧倒的な存在感を持って佇んでいた。

「私はセラフィム。聖具“虹の錫杖”の番人。聖乙女(リル・ファーレ)よ、あなたが訪れるこの日を待っていました」

リュティアは我知らず、うっとりとセラフィムを見上げていた。

―この人が〈光の人〉だ…。

それは確信だった。これほどの存在感を放つこの人を置いて他にいるだろうか。

「髪も睫毛も染めているのに、私が聖乙女(リル・ファーレ)だとわかるのですか」

「もちろんです。あなたには独特の気配と存在感がある」

それは彼が星麗ゆえにわかるのだろう。

それとも、光の人ゆえか…。

「しかし、髪や睫毛を染めるのは賢明なことです。あなたは今、魔月たちに狙われている。万が一にも居場所を悟られてはなりません。特に、四魔月将と呼ばれる人語を操り知能の高い魔月には。何よりも絶対に、指環を外すことだけはしてはいけません、いいですね」

その言葉には有無を言わせぬ真剣な響きがあったので、リュティアも「はい」と真剣に答えた。もとより外す気はなかったが、改めて外すまいと心に誓った。

今リュティアの左中指にはまったこの聖具虹の指輪の効果がなければ、とっくに魔月たちに居場所を悟られ彼らの餌食となっていただろう。
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