聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~約束の詩~
この屋敷に奉公に来た若く美しい侍女たちは皆、残らず顔に焼き鏝を押され一生屋敷に閉じ込められる。

そうとも知らずに娘たちは皆世継ぎの王子の伯母である自分つきの侍女になりたがる。面白いことだ。少しは退屈しのぎになる。

エリアンヌは美しい女を見るのがきらいだった。きらいだから、醜くしてしまえばいい。エリアンヌは今まで侍女たちだけでなく、美女をみつけしだいさらってきては同じことを繰り返していた。真実を知る者たちの間でこう囁かれるほどだ。

都中から、美女がいなくなる、と――。

その点ラーベはいい、とエリアンヌは横目でラーベを仰ぎ見る。

ラーベほどぶくぶくと太って醜い女をエリアンヌは見たことがない。もっとも、この忠実な侍女はその醜さを維持するために一日に人の三倍は食べるようにしているというから見上げたものだ。

「レディエリアンヌ、御髪が乱れておいでです」

エリアンヌの背後に、わずかに距離をとって跪いていた若い男が不意に立ち上がり、エリアンヌのほつれた髪をなおした。

「まあ、ありがとう。あとで金貨をさしあげましょう」

「レディエリアンヌ、足がお疲れではないですか」

エリアンヌの正面に跪いていたもう一人の若い男がエリアンヌの足を優しく揉み始める。

「気持ちいいわ。あなたにも金貨をさしあげなくてはね」

エリアンヌは若く美しい男が何よりも好きだった。だからいつも侍らせている。しかし彼女は飽きっぽいから、同じ顔ぶれではすぐに退屈してくるのも事実だ。

―ああ、退屈だわ。

その時不意に表が騒がしくなり、すぐに執事がエリアンヌのもとへとやってきた。

「レディエリアンヌ。実は貴族の若君が、馬車が壊れてしまい、新しい馬車をお借りしたいといらっしゃっていますが――」

「貴族の若君? まあ、それは、どんな方?」

エリアンヌの瞳が俄然輝く。彼女の性癖をよく心得ている執事は、「それはもう、若く美しいお方です。お会いになられてはどうかと」と応じる。

自ら応対に出たエリアンヌは、しばし言葉を失った。

それほどに、門前に立つカイと名乗る貴族の青年は若く美しく凛々しかった。

エリアンヌが新しい恋に落ちるのに、数秒とかからなかった。

彼女はカイとその付き人たちを、屋敷へと招き入れることにしたのだった。
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