聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~約束の詩~

エリアンヌは退屈だった。

40年間生きてきて、退屈でなかったことなどあまりない。

幼い頃は、エリアンヌが欲しいと思ったものは大抵何でも両親が買い与えてくれたし、大人になってからは領地から転がり込む有り余る財産で何でもすぐに買うことができた。定番のもの、流行のもの、奇抜なもの、なんでもだ。

人間だってエリアンヌのものだ。人々は大抵自分に群がり、自分を褒めたたえる。

何と言ってもエリアンヌはこの国の世継ぎの君の血筋正しい伯母なのだから。だから欲しいものがなんでも手に入って当たり前なのだけれど、いつも何か刺激が足りないのだ。

「ああ、退屈だわ」

エリアンヌは声に出して呟いてみた。

その声の響きが艶っぽくて気に入り、彼女はほくそ笑む。

彼女は遅咲きの薔薇が咲き匂う薔薇園の中、ガラスのテーブルセットに座し、血の色に塗られた爪を磨いていた。

降り注ぐ陽の光に照らされたエリアンヌの姿は美しいと言えなくもなかったが、鼻が高すぎた。彼女の自尊心そのもののように。そして本人は気づいていなかったが、目つき―人を見下すようなその目つきが見る者に不快感を与えるのだった。

「レディエリアンヌ。新しい侍女を連れてまいりましたわ」

お気に入りの侍女ラーベのだみ声―そう、わたくしはこの声が気に入っている―に、エリアンヌはきらりと目を光らせて振り返る。

「…イルアと申します。紅茶のご用意をいたしました」

恰幅のいいラーベの後ろから控えめに姿を現したのは、うら若い侍女だった。

茶色のお仕着せに身を包み、漆黒の髪をぴっちりとまとめた姿は初々しく、伏し目がちのその表情が整った目鼻立ちを際立たせている。

彼女は緊張した様子でエリアンヌのつくテーブルに紅茶のセットを置き、しずしずとカップに紅茶を注いだ。そして一礼し、すぐにさがった。

エリアンヌはすぐにこみあげてくる笑いをこらえきれなくなった。

「あっはっは、ああおかしい。ラーベ」

「はい、レディエリアンヌ」

「…あの娘、いつものように顔をつぶしておしまいなさい」

「かしこまりました」

残酷な会話が、天気の話でもするかのような調子で交わされる。そう、これはいつものこと。
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