聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~約束の詩~
第五章 希望の光

一陣の風が吹き抜ける。

針葉樹の森を、荒れた大地を抜け、街を―今まさに魔月の大群に覆い尽くされようとしている鉄(くろがね)色の街をざわめかせていく。

人々の絶叫を運び、血しぶきを散らし、燃え盛る炎をあおって、たったひとりのもとへ向かう。

異形の獣たちの群れの先頭、陥落を目前にした王城にて、銀の刃を血に染めて駆ける少年のもとへと。

「切り裂け!」

少年の黒髪を揺らした風は、研ぎ澄まされた刃となって兵士たちに襲いかかる。

ざっくりと鎧ごと胸を切られた兵士たちが十数人倒れて果てるのを待たずに、少年は駆ける。

姿勢を低くし、目にもとまらぬ早業で手にした剣を閃かせる。右へ、左へ―踏みだす一歩ごと、縦横無尽に切っ先が銀色に輝くと、後を追って断末魔の叫びが彼に押し寄せる。

鮮血が翻る彼の漆黒のマントを赤く染める。

赤い角がちらちらと彼の視界で踊り、次々と兵士たちが呑み込まれていく―。

「魔月どもめ、お前たちの好きにはさせない! 私が相手だ!」

「陛下、無茶です、お逃げください!」

「陛下!」

主宮殿から燃え盛る中庭に歩んできた王冠を戴く人影に、少年がまなざしを険しくする。

「お前がトゥルファンの国王か」

低く抑えた声には、なんの感情も感じられない。

「いかにも。国王アントワル7世である。少年よ、なぜ魔月につく! そなたは何者だ」

「トゥルファン王よ、死に方を選べ。炎、雷で焼き殺されたいか、地割れにのまれたいか、それとも身体中を風の刃で切り裂かれたいか」

「剣の勝負以外、余は認めぬ!」

「―いいだろう」

少年がぞっとするほど冷たい響きで呟く。彼が何事か呟きながら左手を振り上げると、二人が向き合った半径数メートルほどの円状にいたすべての兵士たちが風で容赦なく吹き飛ばされ、幾筋もの稲妻が円の上に落ちて他の者の侵入を寄せ付けなくした。
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