忠犬ハツ恋
「だってさ、見れなくなんじゃん。」


見れなくなる?何が?
前髪が長い方が見れなくなるものは多いと思う。

「あぁ、そう言う事?」

茜ちゃんが何かに気付いて呆れていた。
私には何の事だか分からない。

「何?何?」

「檜山ってそういう趣味だったんだ、のぞき。」

のぞき?

「檜山はその前髪の隙間からずっと覗いてたんだよ。美咲を。」

「えっ?私?」

檜山君はのそりと上体を起こした。

「お前さ、見られてる事に全然気付かないのな?」

「ウソ!!止めてよ!キモイ。」

「キモイって言うな!!」

檜山君が私の腕にはめていたシュシュを取り上げる。
それは私のお気に入りのベージュにダークブラウンのドット柄のシュシュ。
それで自分の前髪を結びだした。
頭のてっぺんで結ばれた前髪はクジラの噴水みたいに方々に散っている。

今までとのあまりのギャップに笑えた。

「これでいいか?」

「これはこれで逆に近寄り難くない?」

私と茜ちゃんはしばらく檜山君の前髪で遊んだ。
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