忠犬ハツ恋
じゃれ合うチョコソース
目が覚めるとすぐ隣に檜山君がいて、私を見つめて微笑んでいた。
寝顔を見られていた事を自覚し恥ずかしさに咄嗟に顔を布団の中に埋める。

布団の上から私の頭を撫でながら檜山君が聞いた。

「……身体大丈夫か?」

その一言に昨晩の事を一気に思い出した。

私の身体の上を丁寧に滑って行く檜山君の大きくて暖かな掌。
私を怖がらせないように耳元で囁いてくれる檜山君の低い声。

「白石、力抜け…。
息、止めんな。」

茜ちゃんから"痛いよ"という事は聞いていた。
何より未知の領域に足を踏み入れる事が不安で仕方なかった。

私はただひたすらに檜山君に全てを任せ、彼の手を強く握って痛みに耐える事しか出来なかった。

「美咲、……好きだ。」

檜山君から"美咲"と呼ばれた時大ちゃんを思い出した。

大ちゃんがこの事を知れば怒るのかな?軽蔑する?
婚約破棄はもう覚悟していた。

でもこういう裏切り方をしてしまった事に今更動揺し思わず涙が溢れる。

檜山君はそんな私に気付きそっと布団を剥ぐと私の瞼にキスをした。

「泣くなよ。」

ここで泣いては檜山君との事を後悔している事になる。檜山君を責めるわけには行かない。

「ごめん……、違うの。」

上手く言葉に出来なくてただ一言そう言った。
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