漆黒の花嫁 - リラの恋人 -
フゥ、とジェダシュカさんが小さく嘆息したのが聞こえた。
「相変わらず鋭い事だな、アードルニアッシュ」
「‥‥おいっ、お前‥!」
わざとらしく、アードさんのフルネームらしき名前を呼び捨てにしたジェダシュカさんを、ロゥさんが大声を出して睨みつけた。
急に横から入ってきたからビックリする。
「――ロゥ」
息巻いたようなロゥさんにかけられたのは、アードさんのたしなめる厳しい声。
悔しげにジェダシュカさんを一度睨みつけたけれど、ロゥさんはおとなしくそのまま目を伏せて口をつぐんだ。
‥なに?
二人を交互に見つめる。
今のはまるで、
友人というよりは‥
‥‥主従関係のような。
そんな印象を受ける。
アードさんがまるで、
知らない人みたいに見えた。
でも実際は、
あたしはなんにも知らない。
明日から彼が来なくなってしまっても、あたしには何も言えない。
あたしは、
そんな立場にいる存在‥。
――駄目。
そこまで考えてしまって、
あたしは小さく首を振った。
今はそんな事考えないようにするんだから。
ギュッと拳を握りしめた。
そんなあたしたちを黙って見ていたジェダシュカさんが、鼻の奥を鳴らして笑った。
「なんだ‥言わないつもりか」
「‥え?」
意味深なセリフ。
首を傾げたあたしは、アードさんとジェダシュカさんを見つめた。
「――ジェダ。続けろ」
けれど、
あたしと目も合わせず。
アードさんはそう続ける。
「‥ッ」
切なくなってしまいそうで、
あたしは息を殺してアードさんの横顔から視線をそらした。