漆黒の花嫁 - リラの恋人 -



「――魔女の息子ギデルスを倒した時‥」


ジェダシュカさんのその言葉に、あたしはハッとして顔を上げた。



――魔女の息子‥ギデルス。


その名前をこうして改めて聞くと、‥何故だか身体がゾワゾワと反応する。

「‥‥」

あたしは、自分を抱きしめるようして立っていた。


ジェダシュカさんが言葉を止めて、そんなあたしを見つめていたけれど、そのまま続けた。


「あの男を倒した時、
オレは世界を滅ぼしかねない程の魔力を使ったはずだった。

‥しかし、
そうはならなかった。

後から気付いた事だが‥あの時、誰かがそれを抑える魔法を使っていたからだ」


その時を思い出すかのように、ジェダシュカさんが赤く光る瞳を伏せた。



「――‥誰なのかはまだ分からないが、その力はあの男に対しても働いていた」


ゆっくりと目を上げたジェダシュカさんが、あたしを真っ直ぐに見据えた。






「ギデルスが、
間もなく目覚める」


「――え‥?」


ゆっくり言って聞かせるようなジェダシュカさんの言葉が、
あたしには一瞬理解出来なかった。


「だ、だって‥倒したって‥」

さっきの映像でも見えてたのに。


あたしを見ていたジェダシュカさんが、目を伏せて首を振った。その姿は哀しげだった。


「眠っているだけだ。‥誰かがそうさせた」



「そんな‥」

あたしは身震いした。


なんなの?
‥この、不安は。




「‥そのような事を一体誰が?」


ロゥさんの掠れた声が響く中、あたしは呆然とたたずんでた。



国をいとも簡単に侵略し、
一族を一瞬で滅ぼしたような男が‥


――‥生きてる?


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