漆黒の花嫁 - リラの恋人 -
「アードさん‥?」
――コンコン。
「入りますよ~‥?」
そーっと扉を開いて、戻った部屋の中。
意外にもアードさんは、まだベッドで眠っていた。
眠っていても変わらない綺麗な顔。
見つめているとアードさんが起きてしまいそうで、あたしは彼から視線をそらした。
『もうあの男とはいたくないか?』
キュリュスの屋根から安全な場所まで下ろしてくれた後にジェダシュカさんが言った言葉を思い出した。
『すぐにでも帰りたいのならば、オレが今すぐお前をベルガの館まで連れてゆこう』
『今から‥?』
アードさんから、‥離れる。
そして、
帰れる方法が見つかるまでジェダシュカさんといればいい。
それはアードさんを諦められる1番いい方法だと思えた。
だけど‥。
さっきあたしに膝まづいたアードさんが思い浮かぶ。
『せめて、ベルガまで安全に君を送り届けよう』
真摯な瞳をした彼を思い出せば、叶うならもっと傍にいたいと願っている自分がいるのだ。
その気持ちを伝えると、ジェダシュカさんは苦笑するように小さく笑った。
『お前のお気にめすままに』
――何かあったら呼べ。
そう言い残し。
漆黒の魔法使いは、
現れた時と同じように唐突に消えた。