漆黒の花嫁 - リラの恋人 -
彼らしくもなく慌てたように駆け寄ったアードさんが、ジアリーの背中に乗せた荷物から彼の青いマントを力任せに引っ張り出す。
そして、彼女を頭から抱きしめるようにして包み込んだ。
周りの目から守るように。
さっき、あたしを守ってくれた時と同じような気がするのに、全く違う気がした。
大事に、
大切に抱き締めたまま。
「なにを‥やっているんだ。こんな場所まで‥。お前だとすぐに分かってしまうぞ」
かすれたような、そんな彼の声を初めて聞いた気がして、あたしは取り残されたままドキリとする。
少し乱暴な口調で話す彼は、普段の彼じゃない。
一度、
見た事があった。
それは"キュリュス"であたしが垣間見た、『本来の彼』。
当たり前のように彼女の前でそれを見せるアードさんを見て、
あぁ‥。
アードさんは誰にも心を開いていないわけじゃない。
彼女にしか‥
見せたくないんだ。
そう感じた。
綺麗な綺麗な、銀髪のお姫様。
アードさんの大切な、人。