漆黒の花嫁 - リラの恋人 -
やっぱり。
‥‥隠してた。
分かっていた事なのに、あたしは傷ついていた。
彼の背後でこちらの様子を伺うようにしている綺麗な姫君の姿が、よけいに惨めにさせる。
「任務があった。誰にも俺の正体を明かす訳にはいかなかったんだ。‥本当にすまない」
黙ったままのあたしに、少し困ったようなアードさんの顔。
謝らなくてもいいのに。
任務のためなら、仕方がないって事くらいあたしにだって分かる。
それとも、あたしは今そんなに辛そうに見えるの?
そこまで思って、もうこれ以上はここにいられないと思った。
アードさんを想う気持ちを、悟られたくない。
――お姫様に。
‥だから‥。
俯いてから小さく唇を噛み締めて、息を吐き出す。
次に顔を上げた時、あたしは頑張って少し笑顔を作れた。
「ジェダシュカさんが、呼べば来てくれるって言ってたんです。だから、もうここまでで大丈夫です。‥今まで‥ありがとうございました」
「‥‥‥」
頭を下げてから、今度は上手く笑えた気がする。
ロゥさんにもお礼を伝えてくださいとつけたして、‥最後に確かめておきたい事を尋ねてみた。
それには、何故だか確信に似た自信があった。
ーー‥このお姫様は、ベルガのお姫様だ。
婚礼を祝うお祭り騒ぎ。
2人が醸し出す空気。
「――今日の、婚礼のお祭りって‥まさか‥‥お二人の、結婚式ですか?」
国全体で祝う大きなお祭り。
そこから連想出来たその答えは、きっと間違っていない。
少し驚いたようにこちらを見つめるアードさんに、あたしは「あぁ、やっぱり」とそう思っていた。