漆黒の花嫁 - リラの恋人 -
背中に強い衝撃を感じた。
それと同時に、覆いかぶさるアードさんが強く強くあたしを抱き締めた。
彼の大きな身体の中に、あたしはすっぽりとおさまる。
激しい音が鳴り響いた。耳を覆ってしまいたくなる。
「顔を上げないで」と呻くようなかすれた声で囁かれて、あたしはただ頷いた。
しばらくたってから、やっと辺りは静かになった。
彼があたしの耳元に伏せていた顔をゆっくり上げて、真摯な瞳で覗き込む。
その視線があまりに真剣で、ドキドキさせられた。
「‥怪我は?」
「な、ないですっ!ありがとうございました‥ッ」
赤くなった頬を微かに指先でなぞられ、甘いような切ないような目で見つめられる。
その唇が、
「ごめん」と呟いた。
長い睫毛に縁取られた蒼い瞳が、瞼の向こう側に消える。
「‥アードさん?」
反応のないアードさんに不安になって、あたしは必死で彼を揺さぶった。
「アードさん‥?アードさ‥、――‥?」
背中に回した掌が、ヌルリとした感触に触れた。
焦げ付いたような臭いと、煙が視界を覆い隠す。