漆黒の花嫁 - リラの恋人 -
何度呼び掛けても、
揺すってみても、
アードさんの空色の瞳があたしを映す事はなかった。
けれど、何かの意志が働いてるかのように、あたしを抱き締めたままビクともしない。
そのアードさんの身体が、急にフワリと宙に浮かぶ。
あたしは壊れたように、目覚めないアードさんの瞳ばかりを見てた。
「目障りだ」
背筋が凍り付くような冷たい声。
呟くように魔力を発する。
『――‥』
何処からか凄まじい悲鳴が聞こえた。
ギデルスによって宙に浮かされたアードさんの身体が、物凄い勢いで吹き飛ばされ、建物に激突した。
ーーガラガラ‥
建物の一部が壊れた音と一緒に、アードさんが地面に倒れ込む。
「――アード様っっ!!」
「アッシュ!!」
切羽詰まった二つの声が広場に響き渡るのを、あたしは遠くで聞いていた。
視線はアードさんから離せない。
―――動かない。
アードさんが‥、動かない。
‥‥なんで‥?