漆黒の花嫁 - リラの恋人 -






何度呼び掛けても、
揺すってみても、
アードさんの空色の瞳があたしを映す事はなかった。


けれど、何かの意志が働いてるかのように、あたしを抱き締めたままビクともしない。





そのアードさんの身体が、急にフワリと宙に浮かぶ。


あたしは壊れたように、目覚めないアードさんの瞳ばかりを見てた。



「目障りだ」


背筋が凍り付くような冷たい声。

呟くように魔力を発する。


『――‥』


何処からか凄まじい悲鳴が聞こえた。

ギデルスによって宙に浮かされたアードさんの身体が、物凄い勢いで吹き飛ばされ、建物に激突した。



ーーガラガラ‥


建物の一部が壊れた音と一緒に、アードさんが地面に倒れ込む。



「――アード様っっ!!」

「アッシュ!!」



切羽詰まった二つの声が広場に響き渡るのを、あたしは遠くで聞いていた。

視線はアードさんから離せない。




―――動かない。

アードさんが‥、動かない。


‥‥なんで‥?



< 221 / 390 >

この作品をシェア

pagetop