漆黒の花嫁 - リラの恋人 -
ギデルスの朱い瞳がチラリと動いた。
その視線の先にあるのは、つい先程たどり着いた、ロゥさんとジアリーヌ姫の姿。
「そこを通しなさい!
‥アッシュ、アッシュ!!
――手を離してッ!!」
「姫、危険です」
「我々に任せて、城にお戻りください」
「嫌よッ。――アッシュ!!」
何人もの護衛の者たちが、彼女を囲むように立ち塞がってる。
ほぅとギデルスが笑った。
面白そうなものを見つけたとその目が言ってる。
「この国の姫か。‥美しいな」
そう言ったギデルスが、あたしを見下ろした。
宙を舞って移動し、半身を起こした状態のままのあたしの前で膝をつく。
頬をなぞられても反応しないあたしを見て、ギデルスがクククと笑い出した。
「‥まるで人形のようだ。あの頃を思い出す。
――‥生まれ変わる前のお前も、ジェダシュカが倒れた時そんな顔をしていたな」
「‥‥」
あたしはただ黙って、ギデルスを見返した。
何を言われ、触れられても、何も感じなかった。
目に映っていたもの全てが、この時のあたしには遠くで起こってる出来事のようにしか感じられなかったから。