漆黒の花嫁 - リラの恋人 -
静かになった心で辺りを見渡すと、周りがよく見える。
夢の中にはあたしが二人いた。
――正確には、
今のあたしは、魂のようなそんな存在でそこにいて、全てを見ている状態だった。
さっきまでのあたしは、過去の自分と完全に同化していたから何にも出来なかった。
それでも、
アードさんを見下ろすと胸が裂かれたかのように痛んだ。
彼を見つめてるあの時のあたしが、茫然と地面に倒れ込んでる。
ジェダシュカさんとは、
何度も目が合った気がした。
微かに笑顔を向けると、ジェダシュカさんらしくない顔をされる。
『リリー‥』
やめろ、と何度かあたしを止めようとする声がした。
けれど、あたしは静かにそう囁く。
リリーが熱を発しながら輝いた。
眩しいほどの光が辺りを真っ白に染める。その場にある全てを包み込む。
「‥馬鹿野郎‥‥!!」
その声を振り切って、あたしは叫んだ。
『――"コルア"!!!』
激しい音が、
一点に集まってゆく。
その傍には、ギデルスを抱えたジェダシュカさんの姿がある。
あたしは、
少し寂しくなった。
けれど。
こうしなければいけないと、
そう感じてた。
『あなたは、あなたのあるべき場所へ――‥』
静かに言った囁きが聞こえたのか、彼はあたしを見つめてゆっくりと頷いた。
ジェダシュカさんを導く空間の扉が開く。
彼ら二人が何処へ導かれるのか。
それはあたしにも分からなかった。
「――朱里。
何かあればオレを呼べ」
その言葉を聞いて、泣きそうになった。
――また、逢えるよね‥?
『行ってらっしゃい、ジェダシュカさん‥』
その声が聞こえたのか、ジェダシュカさんが優しい笑顔を見せてくれた。
彼らを飲み込んだ歪みが、小さくなって消えてゆく。