漆黒の花嫁 - リラの恋人 -




静かになった心で辺りを見渡すと、周りがよく見える。


夢の中にはあたしが二人いた。



――正確には、
今のあたしは、魂のようなそんな存在でそこにいて、全てを見ている状態だった。


さっきまでのあたしは、過去の自分と完全に同化していたから何にも出来なかった。



それでも、
アードさんを見下ろすと胸が裂かれたかのように痛んだ。

彼を見つめてるあの時のあたしが、茫然と地面に倒れ込んでる。


ジェダシュカさんとは、
何度も目が合った気がした。

微かに笑顔を向けると、ジェダシュカさんらしくない顔をされる。





『リリー‥』



やめろ、と何度かあたしを止めようとする声がした。

けれど、あたしは静かにそう囁く。

リリーが熱を発しながら輝いた。

眩しいほどの光が辺りを真っ白に染める。その場にある全てを包み込む。



「‥馬鹿野郎‥‥!!」


その声を振り切って、あたしは叫んだ。






『――"コルア"!!!』






激しい音が、
一点に集まってゆく。


その傍には、ギデルスを抱えたジェダシュカさんの姿がある。



あたしは、
少し寂しくなった。





けれど。

こうしなければいけないと、


そう感じてた。




『あなたは、あなたのあるべき場所へ――‥』


静かに言った囁きが聞こえたのか、彼はあたしを見つめてゆっくりと頷いた。

ジェダシュカさんを導く空間の扉が開く。


彼ら二人が何処へ導かれるのか。


それはあたしにも分からなかった。



「――朱里。
何かあればオレを呼べ」



その言葉を聞いて、泣きそうになった。


――また、逢えるよね‥?



『行ってらっしゃい、ジェダシュカさん‥』


その声が聞こえたのか、ジェダシュカさんが優しい笑顔を見せてくれた。


彼らを飲み込んだ歪みが、小さくなって消えてゆく。




< 234 / 390 >

この作品をシェア

pagetop