漆黒の花嫁 - リラの恋人 -
一瞬だけ目を点にした男の人は、納得したように瞬いた。
「こちらです」と言いながら、先導を続ける。
「‥納得してくれたの?」
『妖精使いだとでも思われたんだろ』
投げやりに言うコルアは、どうも面白くないといった様子だ。
そういえば、前にコルアを妖精呼ばわりした時。
ジェダシュカさんが"妖精ではなく魔法の精だと怒ってるぞ"と注意してくれたんだったと思い出す。
あの頃は見えなかったのに、
今はこうしてちゃんと見えてる。
あたしもリラとして少しは成長してるのかな‥。
「‥‥‥。」
ジェダシュカさんを思い出して、目を伏せる。
"あの頃"。
そうは言っても、そんな昔の出来事ではないのに。
‥無事、王女さまの生まれ変わりに出逢えたんだろうか。
空間を開き、
彼を導いたのはあたしなのに。
――その答えを知る事はない。
「ジェダシュカさん‥大丈夫かな」
『ジェダシュカがどうなったのか‥知りたいのか?』
意外な言葉が返ってきた。
何かを知ってるかのようなニュアンスを感じて、あたしは期待たっぷりの視線でコルアを見上げる。
その時。
「着きました」
大きな扉の前で、護衛の人が立ち止まった。