漆黒の花嫁 - リラの恋人 -
放っておけばずっとそこであたしを見下ろしてるんじゃないかと思い始めた頃。
あたしは視線で助けを求めるようにジアリーヌ姫を探す。
けれど、視線が合ったジアリーヌ姫は、あたしから慌てて視線を逸らしてしまった。
「‥?」
初めて会ったあの時からはとても想像できないような、そんな動揺を彼女から感じた気がして、あたしは身動きが取れないまま彼女を見てた。
「名を聞かせてくれませんか?」
ほど良いくらいの低い声が彼からもれる。
甘いようなこの人のマスクにちょうどマッチした声音だった。
アードさんを知らなかった頃のあたしなら、間違いなく彼の魅力に惑わされてたかもしれないと思う。
でも、今のあたしはそれどころじゃない。
「‥シュリです。」
イライラしそうになるのをこらえて、そう答える。
視線を逸らすと、ジアリーヌ姫が少しやりきれないような表情で立ち尽くしてた。
その視線の先にあるのは、あたしを通せんぼしてる男の人の背中。
それだけで、ピンときてしまった。
この男の人の事、
好きなの‥?
そんな考えに行き着いて、
あたしはその矛盾に頭が混乱しそうになる。
アードさんはジアリーヌ姫と結婚すると言ってたのに。
政略結婚?
好きな人と結ばれるはずなのに、アードさんはあんなに切なそうに彼女を見てた。
よく、
分からない。