漆黒の花嫁 - リラの恋人 -




すごく、静かだ。


ドクドクと波打つあたしの鼓動以外、何も聞こえない。



リリーを弾いた時にアードさんが作ってくれた結界は、もうないのに。

もう、何も聞こえない。



すぐ目の前には、蒼にも翠にも見えるアードさんの綺麗な瞳があって、あたしを見下ろしてる。

‥抱き締められてる。


改めて見つめると、
こんなに整った顔をしていて素敵過ぎる男の人とあたしが、今まで一緒に過ごしてきたのかと、信じられない気持ちになる。

そして、
それはこれからも‥


‥ずっと。
一緒にいられるんだ。



――この想いだけを秘めて。



彼に見とれて、甘い気持ちになりながらも、結局はその考えに行き着く。

溢れる涙は止まらなくて、あたしはアードさんから視線を外そうとした。


けれどアードさんの指先に顎を取られて、それは叶わなかった。

彼の視線に目を合わせると、さっきよりも近い距離で目が合ってしまう。

ドクンと胸が高鳴る。


乾ききってない水滴が彼の金色の髪から滑り落ちて、ポタリと首筋に流れてゆく。


そんなアードさんに見惚れるように動けなくなってるあたしを見ても、何故か彼は何も言わなかった。

ただあたしの涙を指先でぬぐって、抱き締める。


その腕の強さが切なくて、期待してしまいそうになる。



――あんなに想いを乗せて歌ってしまったから、こうなってしまったのかもしれない。


‥本当は抱き締めてほしいって、そう願って歌ったから。




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