漆黒の花嫁 - リラの恋人 -
アードさんの腕の中で、あたしはギュッと目をつむった。
‥そんなの全然嬉しくないよ。
リリーの力でこの人を自分のものにしたって、全然嬉しくない‥。
なのに。
そんな想いがあるのに、
あたしはアードさんのシャツにしがみついてた。
アードさん‥。
アードさん‥‥。
好きなの。
貴方を、
こんなに好きになってしまった‥。
後先も考えられないくらい、ただ抱き締めて欲しいだなんて。
出逢って間もないあの頃から、臆病なはずのあたしがそんな事を思ってしまうほど。
きっとずっと夢中だった。
「‥もう、泣かないで」
そんなセリフを、いつもなら困ったような顔して言う癖に、何故今日はそんなに真摯な目であたしを見るの?
一週間の眠りから目覚めた時も、彼はそんな目をして同じ事を言ってくれた。
‥少しは、女扱いしてくれてるのかな‥?
両手の親指であたしの頬をぬぐってから、アードさんが顔を背けるように離れようとした。
小さく溜め息を吐きながら彼が手を伸ばすのは、さっきのお酒。
その背中に、あたしは言葉を投げかけた。
精一杯、震えそうになる声を、悟られない様にして。
「‥お酒がないと眠れそうにないですか?」
無言で、彼が振り返る。
それと同時に、手に取ったお酒を喉に流し込んだ。
「かもしれないね」
少し投げやりに、そう呟いて。
これ以上は言っちゃ駄目だと、以前のアードさんの対応で分かっていた。
もしも言ってしまえば、
「干渉するな」って、
きっとまた怒らせてしまう。
だから、その理由が分かっていても、きっと言ってはいけない。
けれど‥分かっていても、
もう止められそうになかった。