漆黒の花嫁 - リラの恋人 -
きっと。
こうしてここにいるのがあたしではなくても、彼はこうやって追いかけていたんだろう。
初めて出逢った時、あたしを助けてくれたように。
キュリュスで、攫われた少女を助けたように。
彼にとって大切なのはあの姫君だけ。
『どんなに優しく甘く囁いてくれても、
どんなに夜を共にしていても。』
それだけはきっと変わらないのだ。
けれど、今だけは。
そんな事実に蓋をして、
あたしはアードさんの広く逞しい胸に身体を預けていた。
こうしていられる時だけは。
‥忘れる事にするんだ。
切なく疼いては醜く歪んでしまいそうな、そんな自分の想いから目を背けて。