漆黒の花嫁 - リラの恋人 -
「風邪をひく。少し体を温めよう」
そう言ったアードさんの腕に抱えられ、あたしは真っ赤になるのを抑えられなかった。
「ご、ごめんなさい‥」
あたしを、いわゆる"お姫様抱っこ"したアードさんが、ロゥさんたちが待っているだろう場所までの道を引き返す。
謝ったあたしをチラリと見てから、アードさんは視線を上げた。
「‥それは何に対しての謝罪?
こうして君を抱いて連れて帰る俺への申し訳なさから?‥それとも、何も言わず俺から逃げた事への謝罪の言葉?」
少し冷たいような声が返されて、ヒヤリとした気持ちにさせられる。
なんか‥。
‥‥怒ってる‥?
アードさんの横顔は、いつもと何も変わらない。
けれど、どこか違和感を感じた。
――お、怒ってますね‥?
しかし急に何故‥。
冷や汗が背中を伝ってゆくような感覚に襲われる。
さっきまでは、優しく背中を抱き締めてくれていたのに。
そんな事を考えながらアードさんの横顔を見上げるあたしを、彼の淡々とした声が促す。
「アカリ?」
‥こ、怖いです‥。
さっきの違和感が分かった。
いつもみたいに、ちゃんと目を見て話してくれないからだ。
息を詰めてしまったあたしは、その呼びかけに答える事が出来なくて、アードさんが微かに息を吐く。
それを見て慌てた。
「ち、違うんです!」
両手を勢い良く左右に振って、何が違うのか自分でも分からなかったが、そう口走っていた。