漆黒の花嫁 - リラの恋人 -


そう言いたかったけれど、ベッドへ降ろされ、唇まで毛布を掛けられて、何も言い返せない。


「コルア。彼女についててくれ。俺は外で‥」

『見張りなら俺がするぜ』


「十分過ぎるくらい寝たからな」と言いながら、コルアは宙返りを何度も繰り返す。


『じゃ、そゆことで』


ポンッと冗談みたいな音をたてて、コルアの姿がその場から消えた。


それを少しの間ビックリしたように見てたアードさんが、やれやれといった調子で振り返った。


「君のコルアはいつも唐突だね」

「‥す、すみません」


何故あたしがコルアの為に謝らなきゃいけないのと思いながらも、そう言わずにはいられない。


‥ほんとマイペースなんだから。


自分に掛けられた毛布をぎゅーっと両手で掴みながらそう思ってると、アードさんがベッドに腰を掛けた。

ギシリという音にどきっとする。


けれど彼は、さして気にしていない様子であたしを見下ろすと、もう一度額に手を乗せた。

そして、優しく囁く。


「明日も早いからゆっくり休むと良い。‥ここに居るから」


目を細める彼を見ながら、あたしは小さく頷いた。


「‥ありがとうございます」



彼は、優しい。

――誰にでも、優しい人なんだ。


だけど今は、あたしがこうして独り占めしてる。


今だけは。



あたしは素直にゆっくりと目を閉じた。





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